コラム

裁判例 男女交際と慰謝料

不倫の故意過失③

弁護士 小島梓

 不倫相手の女性が、最初は、相手の男性が独身だと思っていたところ、途中で、既婚男性だということに気づくという場合もあります。今回は、このようなケースで、不倫相手の女性の故意・過失の認定はどのようになされるのか見ていきたいと思います。

(1)不倫関係をやめた場合
 不倫相手の女性が、独身だと思っていた男性の内縁の妻から、損害賠償請求する旨などの記載がなされた内容証明が届き、男性に内縁の妻がいることがわかったので、以後、交際をやめたという認定がなされた事案では、裁判所は、不倫相手の女性に内縁関係を侵害する故意過失までは認められないとして不倫相手の女性に損害賠償の責任はないという判断をしました(東京地方裁判所平成22年9月24日判決)。

 当該裁判例は、婚姻関係ではなく、内縁関係にある女性がいた事案ですが、この裁判例の考え方は婚姻関係にある妻がいた事実が発覚した場合にも参考になる裁判例と考えられます。従いまして、途中で既婚男性であると気づき、すぐに交際を辞めた場合には、不倫相手の女性に損害賠償責任は発生しないことになると思います。
 しかし、当然のことながら独身だと思っていたと主張すればいいというものではありません。一定の客観的証拠等の根拠をもって主張をしなければ、裁判所の方では、既婚男性であることに交際をやめるもっと前の段階で気づくべきだった、気づいていたはずだという判断をして、損害賠償責任を認めることは十分にあり得ます。

 例えば、男性側が女性を自宅に招くことを拒否し続けていたり、子供がいる気配があったりという感じで、既婚男性である気配を感じられる事情を認識していたという事情があったりしますと、既婚男性だと気づくべきだったということになる可能性がでてきます。実際に、既婚男性であることを完全に隠し通せる男性も少ないです。そのため、女性側は「怪しいけど、本人が独身だと言っているし、まあいいか」程度の状態で交際を継続すると思わぬ損害を被る可能性がありますので、気を付けていただく必要があります。

(2)不倫関係をやめなかった場合
 当初は独身だと思って交際を始めたものの、途中で既婚男性と気づいたが、交際をやめずに継続した場合は、基本的に不倫相手の女性が損害賠償責任を免れることはありません。
 時々、最初に騙されたのだから自分に責任はないと主張される方がいらっしゃいますが、当該主張や事情が損害賠償責任の発生に影響をあたえることは基本的にないと考えていただいた方が良いです。既婚男性と気づいた後も交際を継続した時点で、妻に対する損害賠償責任は発生することになる可能性が高いです。

 これまで、3回に分けて、不倫の故意過失についてご説明してきましたが、総じて、裁判所の判断は不倫相手の女性に厳しいものになっています。既婚男性と交際したという客観的な事実がある限り、よほどの事情がない限り、故意過失は認定されますので、妻に対する損害賠償責任を免れることはできません。不倫相手の女性には、十分に注意していただく必要があります。

 逆に、妻側としては、不倫相手の女性が抽象的に騙された、夫婦関係は破綻していると思っていたと主張しているだけの場合には、相手の主張にとらわれることなく、まずは専門家に相談の上、請求の可否を冷静にご判断いただければと思います。

 次回からは、要件の三つ目である「③損害(加害行為との因果関係)」について説明したいと思います。