コラム

裁判例

不倫と懲戒処分②

弁護士 長島功

 前回、不倫を行ったとしても、当然に懲戒処分を行うことはできず、ケースごとに慎重な判断がなされるべきということをお話ししましたので、今回からは、処分が認められたケース、認められなかったケースを具体的にご紹介していこうと思います。
 

 1件目は、水道管工事をする会社内での不倫の事案です。
 同社の女性従業員と工事を監督する男性従業員が不倫関係になり、他の従業員や取引先にまで関係が知れるところとなったことから、会社は両名に関係を止めるように忠告をしました。
 しかし、2人は聞き入れることなく、関係が継続されたため、会社は、女性従業員に対し、会社内で非難の声が上がっていることや、社内の風紀が乱れること、従業員の仕事の意欲の低下、会社代表者の体面が汚されること等を理由として、退職を勧告しましたが、女性従業員は拒否しました。そこで、会社は不倫関係を続け、会社の風紀・秩序を乱し、企業の運営に支障をきたしたとして、懲戒解雇としたことから、女性が解雇の有効性を争った事案です。

 この事案で裁判所は、不倫が社会的に非難される余地のある行為で、就業規則上の素行不良に該当することは一応否定できないとしつつも、「職場の風紀・秩序を乱した」というのは、就業規則で懲戒事由になっていることなどからすると会社の企業運営に具体的な影響を与えるものに限るとしました。そのうえで、当事者の地位、職務内容、交際の態様、会社の規模、業態等に照らし、当該不倫が職場の風紀・秩序を乱し、その企業運営に具体的な影響を与えたとは認められないとして、解雇を無効とする判断を示しました。

 就業規則で、「職場の風紀・秩序を乱した」ことを懲戒事由に挙げている企業は多いかと思いますが、上記裁判例のとおり、これで懲戒解雇とするには、たとえ不倫であったとしても具体的なものが要求されます。この事例でも、不倫関係が社内や取引先にまで知れ渡っていたことから、職場内でも噂され、職場内の雰囲気に一定程度影響があったものと想像できますが、やはりその程度では懲戒解雇まで行うことは難しいといえます。

 次回は、逆に懲戒解雇がどういった事例で認められているのかについてご紹介していこうと思います。