コラム

裁判例 不貞慰謝料請求 男女交際と慰謝料

慰謝料の誓約書が強迫を理由に、無効になった事例

弁護士 長島功

 不貞行為がなされた場合に、当事者同士で話し合い、慰謝料に関する書面を作成することがあろうかと思います。ただ、弁護士が間に入ることなく、当事者同士で話し合いをする場合、冷静な話し合いというのは難しいですし、ときには行き過ぎた言動をしてしまうことも少なくありません。
 その結果、せっかく書面の取り交わしをしたとしても、後から取り消しの主張をされてしまうことがあります。
 今回はそのようなケースに関する実際の裁判例をご紹介します。

 この事案は、被告(Y)が原告(X)の婚約者とされる女性と関係をもったとして、XがYに慰謝料を請求し、その支払いを約束する誓約書を作成したというケースです。
 しかし、Yは支払いに応じず、裁判でYはその誓約書は強迫されて作成したものであるとして、取り消しの主張を行いました。裁判ではYの主張が認められ、XY間の和解契約は無効と判断されています。
 この裁判では、誓約書作成の過程で、XがYに対して、Yの家族に害悪を及ぼすかもしれないことや、Yの勤務先に行くかのようなことを言ってり、また「おい」と怒鳴ってテーブルを叩いたことが認定され、強迫されてYが誓約書に署名したと認定しています。

 録音などがあれば別ですが、通常、こういった合意書を作成する際の過程は、客観的な証拠がないことが多く、強迫の事実を立証することは容易ではないのですが、この裁判例では以下のような点から強迫の事実があったしています。
・誓約書の金額が低額ではないこと(この事例では220万円)
・Xが署名指印を何度も求めていること
・誓約書の作成後、Yが弁護士に相談した上、誓約書作成から約2週間後に、誓約書の内容を反故にする通知をXに送っていること
・Xが警察にも相談をしていること
・誓約書はファミリーレストランで作成されたが、その時間帯が夜間で客が多かったことがうかがわれないこと
・Xが本人尋問の申請をしていないこと(通常、裁判では、少なくとも当事者は自らの本人尋問を申請します)
 といったことを踏まえ、強迫行為があったことを認定しております。

 当人同士で慰謝料の誓約書を作成するというケースはよくあるかと思いますが、せっかく作成した誓約書も取り消しの主張をされ、裁判を経て無効になってしまっては意味がありませんし、その費用や時間も考えれば、結果はマイナスです。
 特に男女間の不貞行為等を理由とした慰謝料請求は、当人同士ですと感情的になりやすく、こういった紛争になってしまうことも少なくありません。
 弁護士が間に入ることで、こういったリスクをできる限り回避することは可能ですし、少なくとも事前にご相談いただくことで、誓約書作成時にご注意いただくことなどをアドバイスすることも可能ですので、気になられた方は一度ご相談されることをお勧めします。