コラム

裁判例

不倫関係における名誉棄損①

弁護士 長島功

 不倫関係には様々なトラブルが潜んでおり、その中でよくみられるものとして、名誉棄損が挙げられます。
 不倫関係解消の場面では、当事者の様々な思いが交錯することから、不倫関係を第三者に口外することがあり、その際、事実と異なることを述べたり、事実を誇張したりしてしまうケースが多いです。
 ただ、限度を超えてしまうと、法的責任が生じることもあるため、注意が必要です。
 そこで、今後いくつか不倫関係に伴って生じる名誉棄損が問題となった裁判例について、ご紹介していこうと思います。

 今回は次のような事例です。
 XとY1は、会社の上司と部下の関係にあり、Xは既婚者であったことから不倫関係にありました。また、Y1は、Xと交際中、Y2とも交際を開始し、Y2も既婚者であったことから、これも不倫関係でした(以降、Y1とY2を併せて「Yら」とします)。
 Y2は交際当初、Y1がXと交際していることは知りませんでしたが、その後Xとの交際の事実を知るに至り、Y1に問いただしたところ、Y1はXと不倫関係にあることを認めつつも、Xから不倫関係の継続を強要されている旨説明をしました。そこで、Y2はY1と一緒に警察に行き、Xより不倫関係の継続を強要されていることや、ストーカー行為を受けていること等を警察に説明しました。また、Xの勤務先社長を訪ね、警察での説明と同じ説明をし、Xの行為を止めさせ、処分をするように求めました。
 社長より説明を求められたXは、ストーカー行為などは否定したものの、その後自主退職を勧告され、退職するに至りました。

 以上の事実関係について、この裁判ではYらの行為が、名誉棄損に該当するかが問題になりました。
 この点について、裁判所は、警察に相談をしたことについては名誉棄損にはならないとしつつも、職場の社長に話したことについては、Xが実際に不倫関係の継続を強要したり、ストーカー行為といえるような行為をしたとは認められないとし、誇張または虚偽といえるような説明をしたことで、Xの職場における信用・評価が毀損したとして、Y1について、不法行為の成立を認めました(なお、Y2については、Y1の説明を直ちに信用してしまいやや軽率としながらも、誇張または虚偽の説明をしたという認識をもっていないとして、不法行為は成立しないとしています)。

 この事例は、Y2の手前、Y1がストーカー被害を受けているかのような説明をしてしまったことがきっかけで、違法行為に及んでしまったと思われるケースです。不倫関係では、お互いの様々な感情や思惑から、第三者につい事実と異なることを言ってしまったり、無意識にでも、オーバーに表現してしまったりすることがあり、そのようなことをしてしまうと、この事例のようにトラブルが一層拡大してしまいます。
 

 不倫は、このように第三者を巻き込んでトラブルが不必要に拡大しがちですので、お困りの方は一度弁護士にご相談されることをお勧めします。