コラム

不倫相手との関係解消 裁判例 男女交際と慰謝料

既婚者と知って交際していた場合の慰謝料

弁護士 長島功

 不倫関係は、相手が既婚者であることを秘しているような場合は別として、基本的にはお互い不倫であることを認識して関係を継続していることが多いです。
 そして、そのような不倫関係の解消にあたって、相手から慰謝料を請求されることもあります。
 よく慰謝料を請求する側は、「離婚すると言っていたのに、時間だけが経過し、突然別れ話をされて納得できない、時間を返して欲しい」「離婚しないのであれば、関係をもたなかった」といった感情から、慰謝料を請求するケースが見受けられます。
 では、このように自分も不倫あると分かって関係を継続していたような場合でも、慰謝料の請求はできるのでしょうか。
 この点については、不倫関係自体が違法ですので、その一方が他方に対して慰謝料を請求するというのは原則としてできません。
 ただし、事案によっては認められているものもあります。この点について、参考になるのが昭和44年9月26日の最高裁判決です。
 以下、簡単に事案とともにご紹介していこうと思います。

1 事案の概要
 男性は妻子がいる既婚者で職場の上司、女性は未婚の事案でした。
 男性は、女性が19歳余りと異性に接した経験がなく、思慮不十分であることに付け込み、女性と結婚する意思がないのに妻と別れて女性と結婚する旨の詐言を用いたことから、女性は男性がいずれ離婚してくれるものと信じて関係を持ち、1年4か月ほどの間に十数回関係をもちました。
 そうしたところ、女性は妊娠をしましたが、それを知るや男性は女性を避けるようになり、子どもの出産費用を支払った他は、女性との交際を絶ったというものです。

2 最高裁の判断
 このような事案で最高裁は、女性が関係をもった当時、男性が既婚者であると知っていたとしても、そのことによって、女性の男性に対する貞操などの侵害を理由とする慰謝料請求が許されないと画一的に判断すべきではないとしました。
 具体的には、関係をもった動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合において、男性側の情交関係を結んだ動機その詐言の内容程度及びその内容について女性の認識等諸般の事情を斟酌し、情交関係を誘起した責任が主として男性側にあり、女性の側におけるその動機に内在する不法の程度に比し、男性の側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには、女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求は許容されるべきとしています。
 そして、この事例では、男性は単なる性的享楽の目的で、思慮不十分な若年の女性に対し、離婚して結婚すると欺いてそれを信じた女性と関係をもったという認定をして、違法性の程度は男性側が著しく大きいとし、慰謝料の請求を認めました。

3 まとめ
 法的には、クリーンハンズの原則という考え方があり、これは社会的に非難されるような行為をしたときは、その行為に関して法は助力しないというものです。
 そのため、不倫であることを知りながら関係をもったのであれば、慰謝料を請求したとしても法はそれに助力せず、請求は認められないのが原則です。
 ただ、お互い不倫と分かっていたとしても、ケースによっては、その一方に著しく大きな責任があると評価すべき場合があり、その場合には結論の妥当性からも、上記事案のように慰謝料が認められる場合があります。
 もっとも、これはあくまで例外的に認められるものです。不倫では、離婚して結婚するという言葉が交わされていることはよくありますが、そういったやりとりがあれば、慰謝料が当然に認められるという訳ではないと考えられます。お困りの方は一度ご相談ください。