コラム

裁判例 不貞慰謝料請求

不倫による慰謝料請求訴訟が不当訴訟とされた事例

弁護士 長島功

 不倫による慰謝料請求訴訟を提起したものの、不倫相手とされた被告からは不倫の事実がないとして争われることはよくあります。
 今回は被告より不倫の事実が争われただけではなく、反訴を提起され、原告の慰謝料請求訴訟が不当訴訟であるとして、逆に損害賠償請求をされて、その請求が認められた裁判例(東京地裁平成24年11月14日判決)をご紹介します。

1 事案の概要
 Xとその夫(A男)は、婚姻後に長女をもうけたが、喧嘩を繰り返しており、A男が暴力を振るうこともあった。
 そのため、Xは子供を連れて実家に戻たり、同居を再開したりするなどしていた。
 そのような中、A男は仕事で知り合ったY女に夫婦関係の悩みを相談し、その際A男はY女よりお金を借りたものの、直ちに返済しなかったことからA男とY女の間でトラブルになった。
 そこで、A男はXにY女と金銭トラブルになっていることを告げたところ、XがY女に会うと言ったことから、A男が夜Y女を呼び出し、3者で会った。その際、XはA男とY女が不倫関係にあると言い、言い合いになった結果、警察への通報やY女が自身の夫を呼ぶ事態となった。
 また、A男宅にスプレーでいたずらがされるといった出来事があったため、警察に被害届を提出した。
 なおその後、Y女はA男よりお金の返済を受け、XとA男は離婚するに至った。
 そして、XはA男とY女に対して、暴力や不貞行為で離婚に至ったとして損害賠償の請求をしたのに対し、Y女からはXの請求が不当訴訟などに当たるとして、逆に慰謝料等の支払いを求める反訴が提起されたのが本件である。

2 判決内容
 以上の事実関係を前提に、裁判所は不当訴訟の部分に関して、以下のような判断を示しました。
 まず、どのような場合に不当訴訟になるかについては、
「当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である」
 という最高裁の判断を示しました。その上で本件が不当訴訟にあたるかについては、
・A男とY女が不貞関係にあった証拠は、A男の不倫関係にあったとXに告げたという供述以外にない(しかも、A男はこの供述を否定している)
・3者の話し合いの際に、仮に不倫行為でトラブルになっていたとすれば、Y女が自分の夫を呼び出すとは考え難い
・A男宅へのいたずらも、これとY女を結びつける証拠はない
 といった判断をした上で、Xは、A男とY女が不貞関係にあるとする具体的な根拠を有さずに、本件訴訟を提起したものというべきとして、Xの訴訟提起には不法行為が成立すると判断しました。
 なお、不当訴訟の賠償額は、60万円(慰謝料50万円、弁護士費用10万円)とされています。

 訴訟提起自体が不法行為となる不当訴訟は、かなり限られた場合ですので、本件のように不倫の慰謝料請求訴訟を提起して、それが不当訴訟とされるケースはそれ程多くありません。
 Xからすると、不貞を疑う事実というのがあったのかもしれませんが、本件のように単に請求が棄却されるだけでなく、不当訴訟とされ、逆に賠償責任を負う事態もあり得ます。
 不当訴訟は、不倫による慰謝料の裁判に限ったものではありませんが、不倫が絡む場合、感情的に訴訟提起に至ってしまいやすいことがありますので、注意が必要です。