コラム

裁判例 男女交際と慰謝料

妊娠した子を出産するか否かの自己決定権を侵害すると判断した裁判例

弁護士 幡野真弥

 東京地裁令和 3年 7月19日判決をご紹介します。

 原告と被告は交際にいたり、原告が妊娠することとなりました。
 原告と被告は話し合いを重ねるなかで、被告は「ずっとそばで支えていくことが俺の責任だ。」と述べ、「夜はできる限り一緒にいて欲しい。」という原告の頼みについて、被告は了解した上、二人で一緒に過ごせる努力をすると約束しました。
 婚姻届について、被告は「紙切れ一枚の関係よりも、ずっと二人で生きていることの方が大事だ。」と述べて提出は拒みました。
 原告は、「中絶した後に、私を捨てない保証はない。」と被告の気持ちを確認したところ、被告は「努力するから信じてほしい。今は信じてほしいとしか言えない。」と答えました。
 原告は、被告のこのような言葉を受けて信頼し、子は妊娠中絶するが被告との交際は続けるという選択をし、中絶を決意しました。
 しかし、中絶手術・水子供養の後、被告は原告と会おうとしなくなりました。

 裁判所は「被告は,本件妊娠発覚後の原告との話合いにおいて,子を産むことに難色を示し続け,他方,原告との関係を将来に渡り継続する旨述べたものの,本件中絶後は,その月及び翌月に会った以降は,原告と会おうとしていない。以上の事実からすれば,本件妊娠後の話合いにおいて原告に示した,原告との関係を将来に渡り継続するとの意向は,その当時としても被告の真意とは異なったものと推認される。そして,原告は,このような被告の言説を信用し,中絶を決意したのであるから,被告のこのような言説は,原告の妊娠した子を出産するか否かの自己決定権を侵害するものであり,不法行為を構成する」と判断し、慰謝料100万円を認めました。