コラム

裁判例 不貞慰謝料請求

慰謝料1000万円の合意を無効とした裁判例

弁護士 幡野真弥

 今回は、東京地裁平成20年6月17日判決をご紹介します。
 被告Yは、原告Xの配偶者Aと不貞行為を行いました。不貞関係は原告の知るところとなり、原告と被告が初めて会った際に 被告は、原告に求められるままに
「私Yは今搬X様よりお申し出頂きました慰謝料10,000,000円を3年以内にお支払いすることを約束いたします。お支払いのペースに関しましては7月2日(月)までにお返事いたします。YとAとの不倫についての慰謝料といたします。」
 などと記載した書面を作成し、署名しました。
 そして、原告Xは、被告Yに対して1000万円の支払いを求めて訴訟を提起しました。

 裁判所は「一般に,不貞行為者は,自己の不貞の交際相手の配偶者との直接の面談には心理的に多大な躊躇を覚えるものであり,一刻も早くそれを終わらせたいと考えることが自然であると認められるから,慰謝料を請求されてもその支払に抵抗せず,また,高額な慰謝料額を提示されたとしても,減額を求めたり,その支払可能性等について十分に考慮することなく,相手方の言うがままに条件を承諾し,とにかく面会を切り上げようとする傾向が顕著であると考えられる。加えて,本件合意における1000万円という慰謝料額は,一般の社会人にとって極めて高額な金額といい得るばかりではなく,不貞相手の配偶者に対する慰謝料額としても相当に高額であることは明らかである。」としたうえで、「(被告の)の内心の真意としては原告に対して1000万円の慰謝料を支払うつもりはなかったと認めることが相当である。」と判断し、原告も、真実被告が1000万円の支払をするつもりがあるのかどうかについてはなお疑いを抱いていたと認めることが合理的であるし、少なくとも慰謝料として1000万円を支払うという意思が被告の真意ではないことについて、知り得べきであったとして、1000万円の賠償責任を否定しました。
 もっとも、不貞行為自体は事実ですので、慰謝料は300万円と判断されています。