コラム

裁判例 不貞慰謝料請求

慰謝料の合意が真意に基づかないもので無効と判断された裁判例

弁護士 幡野真弥

 今回は、東京地裁平成25年10月30日判決をご紹介します。

 原告は、自身の配偶者と不貞をした被告は、被告の自宅で面会しました。
 ここで、被告は、次の4つの条件に同意する旨を記載した書面にサインして印鑑も押しました。
 ①慰謝料及び賠償金800万円を6日後までに支払うこと
 ②今後一切、原告及び家族と接触をしないこと、
 ③原告の住居や仕事場への接近等をしないこと
 ④本件について口外しないこと
 そして、原告は、自身の配偶者と不貞行為を行った被告に対し、慰謝料800万円を支払う合意をしたとして、支払いをも求めて裁判となりました。 

裁判所は
 「800万円というのは,不貞行為に対する慰謝料としては極めて高額であり,その額を6日後までに一括で支払うというのは一般の社会人にとって実現困難な条件であること,被告は,末尾の署名欄と日付欄以外の部分は既に完成した本件合意書を当日初めて見て,十分な検討の機会を与えられないまま,これに署名するに至ったこと,本件合意書に署名するまでの間,被告は,800万円の慰謝料を支払うことについて,繰り返し抵抗していたが,本件合意書の内容や原告の当日の発言内容が,本件不貞行為を知ったことによる精神的苦痛を強く訴えるものであったため,本件不貞行為を行った被告としては,原告の求めに抗い続けるのが困難な状況にあったことの各事実が認められる。これらの事実からすると,被告が本件合意書に署名したのは,原告との面会を早く切り上げて,その場から解放されることを意図したものであって,内心の真意としては,本件不貞行為に対する慰謝料として,800万円を原告に支払う確定的な意思までは有しておらず,そのことを原告も当然認識可能であったと認めるのが相当である。
 よって,被告の意思表示は,心裡留保として無効というべきである。」と判断しました。

 書面にサインした場合、通常は、書面の内容に同意したものと扱われ、法的責任も発生するので、安易に書面にサインすることは避けるべきです。もっとも、今回の裁判例のように例外的に救済されることもあります。ただし、今回の裁判例でも、不貞行為自体はしているので、原告の慰謝料は250万円と認められています。