コラム

裁判例

婚約し同居していた男女の一方が、別居後に関係を解消した行為について、不法行為が成立しないと判断された事例

弁護士 幡野真弥

 東京地裁平成28年7月13日判決をご紹介します。
 事案の概要は次のとおりです。
 X(控訴人、男性)は、婚約をしたY(被控訴人、女性)と約9年3か月間同居し、その後、約2年1か月の別居期間を経てから、Yから一方的に関係を解消されたことについて、内縁関係及び婚姻予約が不当に破棄され、精神的損害を被ったとして、Yに対し、不法行為による損害の賠償として慰謝料140万円の支払を求めました。

 裁判所は、XとYの間で、社会観念上夫婦共同生活と認められるような関係を成立させようとする合意があったものとは認め難いこと、同居中XとYの関係は必ずしも円満ではなかったこと、Xは、Yの生活態度に不満を抱いて、同人に対し、「一度も一人暮らしをしたことがないから、一度苦労を味わってみろ。」などと述べたことがあり、このXの発言が切っ掛けとなって、Yがマンションから出てXと別居したこと、XはYに対し「もう、俺が誰と付き合おうとも関係ないだろ?」というメールを送り、内縁関係を否定する趣旨の言動をしていたこと、XとYの別居期間は約2年間と長期間に及んでいるところ、その間、両者が再び同居するなどの将来に向けた話合いが行われた形跡が見受けられないことに鑑みれば、XとYの内縁関係は、両者が別居を開始した平成23年9月頃には、実質的に解消されていたと判断し、Yが平成25年になってから内縁関係の終了を伝えた行為は、その動機、方法等が社会通念上不当なものであったとは認められないから、不法行為を構成しないというべきであると判断しました。