コラム

裁判例 その他

同棲や面会の差止請求

弁護士 長島功

 不貞行為が今なお継続している場合、損害賠償請求をするのが通常ですが、配偶者と不貞相手が同棲したり会うことを禁止することまで認められることはあるのでしょうか。
 実務上あまり見られませんが、不倫相手に対し、婚姻が継続している間、配偶者と同棲又は会ってはならないということを裁判所に求め、裁判所が判断した事例(大阪地裁平成11年3月31日判決)がありますので、ご紹介しようと思います。

1 事案の概要
 夫が不倫相手の女性Yと20年近くにわたって交際をしていたところ、妻の知るところとなりました。そしてYとの関係解消をめぐって、夫婦の間で話が拗れたことから、夫が居住先を告げないまま自宅を出て別居するようになりました。
 そこで、妻はYに対し、損害賠償請求に加えて、夫との同棲や面会の差止めを求めて提訴したのが本件です。

2 差止に関する裁判所の判断
 まず裁判所は差止に関し、
「差止めは、相手方の行動の事前かつ直接の禁止という強力な効果をもたらすものであるから、これが認められるについては、事後の金銭賠償によっては原告の保護として十分でなく事前の直接抑制が必要といえるだけの特別な事情のあることが必要である。」
として、限られた場合にのみ認められるものとの判断を示しました。
 その上で、本件事案の同棲について、次のように判断しその差止請求については棄却しました(なお、当事者の表記は分かりやすく「妻」、「夫」などに書き換えています)。
「原告(妻)と夫は婚姻関係こそ継続しているものの、平成一〇年五月ころから夫は家を出て妻と別居しており、妻に居所を連絡してもいない。これに加えて、先に認定した経緯をも考慮すると、両者間の婚姻関係が平常のものに復するためには、相当の困難を伴う状態というほかない。そして、妻もまた夫との離婚をやむなしと考えてはいるものの、夫が被告(不貞相手)と同棲したりすることはこれまでの経緯から見て許せないということから夫との離婚に応じていないのである。そうすると、今後被告と夫とが同棲することによって、妻と夫との平穏な婚姻生活が害されるといった直接的かつ具体的な損害が生じるということにはならない。同棲によって侵害されるのはもっぱら妻の精神的な平穏というほかない。このような精神的損害については、同棲が不法行為の要件を備える場合には損害賠償によっててん補されるべきものであり、これを超えて差止請求まで認められるべき事情があるとまでは言えない。」 
 そのため、この裁判例に従えば、同棲の差止まで認められるケースは殆どないといってよいかと思います。
 なお、この事案で妻は同棲の他に、面会の差止も求めていますが、会うこと自体は違法ではないとして、この差止請求も棄却されています。